2011年10月18日
「好きなモノは決して人を裏切らない」 札幌のはろー書店が閉店
札幌の都心で、写真集や絵本や原書、東欧雑貨などを販売していたはろー書店(中央区南3西1和田ビル3F)が、2011年10月16日(日)をもって、現店舗での営業を一度終了しました。
札幌に素敵な雑貨屋さんは数多いですが、はろー書店は唯一無二、本当に独自の存在でした。単なるお洒落でセンスのよい販売店でなく、世界中の濃密な歴史や物語を直接引き込んで、ともに息づいていた磁場でもあったと思います。
10月14日、最終営業中のはろー書店に、最後のお別れに行って来ました。
お店は、スガイの映画館がある一角の北側、和田ビルの3階です。古い木の階段をギシギシさせて上っていくと、ヨーロッパアンティークのシャンデリアと素敵な看板の向こうに、秘密の屋根裏部屋のような空間が拡がっていました。欧米の写真集、絵本や原書、ポストカード、アンティークのリネンやボタン、東欧雑貨や家具までが所狭しと積まれ、窓際のレジカウンターでは店主の明石謙一(あかし・けんいち)さん(41歳)が、よくお客さんと談笑していました。
明石さんは1995年に23歳でニューヨークに渡り、働きながら本の流通を学んだそう。3年後、給料の大半を投じて集めた写真集とともに帰国。1998年4月にパルコ裏の通りで路上販売店として「はろー書店」をスタートし、同年10月から現在の店舗で営業してきました。
お店の品々はすべて、明石さんが欧米の蚤の市や古物屋を回って直接買い付けたものばかり。開店当初は、本とポストカードだけでしたが、3年ほどしてお店に立体感を出したいと、本と同じ時代の生活雑貨も加えたそうです。
例えば、素敵なポストカードを見つけ「この写真いいですね」と話しかけると、「その人が好きなら、こんな作家さんも居ますよ」と話題は次から次へ。知らない世界の窓を次々開いて見せてくれるような所でした。
ちなみに、明石さんは自分でも撮影する大の写真好き。好きな写真家ベスト5は、ヨセフ・クーデルカ、ヨセフ・スデック、アンドレ・ケルテス、ブラッサイ、ロバート・フランクだそうで、最初の4人はチェコとハンガリーの写真家です。それで明石さんは東欧諸国に興味をもち、買い付けに行くようになったそうです。
はろー書店には、オリジナルの2大企画がありました。
ハンガリーから持ち帰ったディアフィルム(絵本スライド)の手作り上映会「絵本影写会」と、音楽会「ジプシージャズの夜」です。
「絵本影写会」は、元々はハンガリーの家庭で、絵本の画像を子供部屋に投影して、お母さんが読み聞かせていたもの。2002年、ハンガリーの蚤の市でこのディアフィルムに出会った明石さんは「お店でやろう」と即断、機材とフィルムを買い集めて持ち帰りました。当時は日本語とハンガリー語の辞書がなく、お店のスタッフと一緒に、ハンガリー語から英語に、英語から日本語に翻訳して、半年後に上映を実現しました。絵本の場面を順にスライドで投影しながら、スタッフが読み語ります。不思議な懐かしさと絵本の圧倒的な美しさで、すぐに、はろー書店の人気企画になり、各回15名のチケットは発売後すぐに完売。道外からのお客様も居たそうです。
音楽会「ジプシージャズの夜」は、2004年に明石さんがパリのカフェでジプシー達の演奏を目撃したのがきっかけ。ヴァイオリンなどで演奏が始まると、店の前を歩いていたホームレスのおばさんが踊り始めたり、カフェ一帯が素晴らしい空間に変わったそうです。日本でまだ聴いたことがない音楽でしたが、明石さんは「お店でやろう」と即決。パリでギターと教材を買って帰り、独学で練習を始めました。「練習そろそろ飽きてきました」「じゃあ仲間を探しなさい」とアドバイスされ、ジプシージャズバンド「Ga Dilo(ガ・ディーロ)」を結成、2006年から、はろー書店で演奏を開始しました。
つまり、はろー書店は、単にモノやイベントを販売していたのではなく、明石さん自身が素晴らしいと感じたエッセンスを、モノやイベントに託してオリジナルな演出で伝える場でもあったと思うのです。
「ニューヨークでも札幌でも、その場の『気』があります。その中で自分をどうアピールしていくのか考えるのは一緒です」と明石さん。
こうしてお店のファンは全国に拡がり、2大企画の他にも次々と独創的な企画を打ち出し、札幌というマチの面白さの一角を確実に担った「はろー書店」でしたが、明石さん自身は、ここ5~6年、物販という仕事に疑問を感じるようになったと言います。
「ここ数年『○○の写真集はありますか』『ありませんが、こういう作家のがありますよ』『無いならいいです』というお客様が増えました。僕自身は、周辺を自分で発見していくのが楽しいので、とても寂しく感じていました」
「一番好きだったことを仕事にしているのに、苦しくなって来ました。どうしてなのか自分でも分かりません」。
そうして、モノがあふれる現在における物販の意義や今後の方向などを再考し続けた明石さんが行き着いたのは、「人間の基本である食事、それを作る酪農家になる」ということ。閉店後、津別町の牧場へ移り「自分が自信を持って人に薦められるモノを作ります。それは、これまでと同じです」(参照:同店ブログの閉店ご挨拶)。
ラスト営業中のお店は、取材の短い時間の中でも、あらゆる世代のお客様が次々に入ってきてお店を見て回り、それぞれに名残を惜しんでいました。
「これまで培った鑑識眼やプロデュース力を、封印してしまうのは惜しくないですか?」と聞いてみずにはおられませんでしたが、明石さんのお返事は明快でした。
「自分の好きなモノは決して人を裏切りません、自分の中に必ず残っているんですから」と明石さん。
「本当にやりたいことがあるなら、自分でレールを変えてみることも大切です。絶対に何かを成し遂げようとする時、必ず落ちる時期があります。僕の体験からいうと、まず3年半ですね。本当に大切なことが軌道に乗るまでの滑走路の時間。この時間が、その後の感動を呼ぶ力になるのだと思います」
最後に、明るいお知らせが一つ。
同店のスペースは、「Brown Books Cafe ブラウンブックスカフェ」(現在円山で営業中)が、12月中旬をメドに、引き継いで営業することになりました。(明石さんの個人ブログ「WALKING AROUND」の記事より)
BBCの店長の星川洋子さんは、以前から、はろー書店の大ファン。最終営業中に初めて明石さんとお話し、その場で意気投合。店舗スペースを引き継ぐことが決まったそうです。ここをBBCの第2店舗として、はろー書店の本の一部を可能な限り委託で引継ぎ、珈琲を飲みながら本が読めるお店にしていくそうです。
明石さん、本当に「好きなモノは決して人を裏切らない」んですね。
はろー書店の15年間、ありがとうございました。
そしてBrown Books Cafe(ブラウンブックスカフェ)さん、楽しみにしています。
【写真撮影】 kensyo(鈴木謙彰) 2011年10月14日撮影
【ラスト営業】 終了しました
会 期 :2011年10月8日(土)~16日(日)
時 間 :11:00~19:00 無休
・閉店日時:2011年10月16日(日)
・住 所 :札幌市・はろー書店(中央区南3西1和田ビル3F)
・お問合せ:はろー書店 TEL&FAX (011)219-2776
【お勧め】 はろー書店のパノラマ写真
札幌の写真家横谷恵二さんのサイト「パノラマジャーニー」の「はろー書店」
360度フルスクリーンで、2007年当時のお店の様子が見られます。