:::2007.09.05号より:::


撮影/若松和正

堺 雅人

「壁男」は、札幌の人がいつも見ている風景が映し出されている、札幌ならではの映画です

 札幌在住の映画監督・早川渉さんが、全編札幌ロケで撮影した映画「壁男」が、現在公開中です。原作は、諸星大二郎の同名短編漫画。札幌に住む主人公のカメラマン・仁科光を演じているのが堺雅人さんです。「札幌のスタッフが札幌で撮るって、面白い企画だなと思いました」と振り返ります。
 しかし、壁の中に潜む壁男に興味を抱き、異常な行動を取るようになる仁科に、知的で独自の哲学を持つ雰囲気がある堺さんがキャスティングされたのは意外な感じがします。早川監督は、堺さんの"さわやかな笑顔の奥に秘められた妖しい光"に興味を引かれてオファーしたとか。「自分のすべてを出し切って仁科を演じたつもりです」。仁科の役は、目に見えない壁男の存在を受け止めながら、少しずつ異常な精神状態に陥っていく過程を演じなければならない難しさがあります。しかし、監督の狙い通り、堺さんは常軌を逸した人間の狂気を見事に表現していました。
 それにしても、仕事も恋愛も順調だった仁科がなぜ、壁男に取り憑(つ)かれてしまったのでしょう。「恵まれた環境にあっても、日常生活の中で何か満たされない思いを抱えた人間が、目に見えない別の世界に惹(ひ)かれるというのは、決して突飛な状況を演じている訳ではないのでは」と語ります。例えば映画好きな人が、スクリーンの向こう側にあるフィクションの世界に浸ることで、日常から少し離れてみるのと同じこと、とも。
 撮影は2006年の1月下旬から約3週間かけて、札幌市内を中心に行われました。堺さんは、札幌市内のウイークリーマンションで過ごし、そこから撮影現場に通ったそう。「撮影が終わればスーパーマーケットで食材を買い部屋で料理を作るなど、ホテル暮らしではなく、生活者として過ごしたことで"札幌人"に近づけました。お陰でカメラが回っていないときも、仁科の気持ちになれましたね」と、役作りにもプラスの作用があったようです。
 とはいえ、厳寒の冬に、しかも戸外の撮影もこなすなど、大変だったはず。堺さんは撮影終盤でインフルエンザに感染し、クライマックスで小野真弓さん演じる恋人の響子と相対するシーンは、病を押して撮影に臨んだそう。「タミフルを服用して撮影しました。小野さんにうつしたらと思うと心配でしたね」との言葉に、自分のことより共演者を気遣う優しい一面がかい間見られました。
 最後に本作品の魅力を聞くと、「札幌駅前など、地元の人がいつも見ている札幌の風景が映画の中に存在するので新鮮かもしれません。まず、札幌で生活している人に、見てもらいたい札幌ならでは映画です」と熱心に語ってくれました。その姿からは、札幌に対する深い愛情が感じられました。もしかしたら、堺さんは仁科を演じているうちに、演技という壁を越えて、“札幌人”になってしまったのかもしれません。(斉藤美香)


映画「壁男」(トルネードフィルム配給、諸星大二郎原作)©「壁男」製作委員会

 テレビ局の情報バラエティー番組でレポーターを務める響子のもとに、壁男に関する投書が届く。興味を抱いた響子は取材を始める。が、彼女の恋人・仁科は壁男に異常な興味を示し…。
(監督・脚本/早川渉、出演/堺雅人、小野真弓ほか)
※シアターキノで公開中。

さかい まさと
1973年生まれ。宮崎県宮崎市出身。早稲田大学在学中の92年に旗揚げした劇団「東京オレンジ」(早稲田劇研)で活動を始め、看板役者として注目を集める。現在は舞台だけにとどまらず、テレビ、映画などにも活躍の場を広げる。主な出演作にNHK大河ドラマ「新選組!」、映画「ハチミツとクローバー」ほか。

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