:::2008.07.02号より:::

阿部寛、監督・是枝裕和

「良多の力が抜けた感じを出すために、芝居をしようと思わず、素の自分で演じました」(阿部寛)

あべひろし
1964年、神奈川県生まれ。映画「チーム・バチスタの栄光」「隠し砦(とりで)の三悪人」などに出演。ドラマや映画などで幅広く活躍中

これえだひろかず
1962年、東京都生まれ。初監督作品は95年の「幻の光」。その後、「誰も知らない」「花よりもなほ」など、数々の作品を発表

 映画「誰も知らない」を手掛けた是枝裕和監督の最新作「歩いても 歩いても」。成人して家を離れた子どもたちと、老いた両親のある夏の1日を描いたホームドラマです。
 阿部寛さんが演じたのは、妻と息子を連れて久しぶりに里帰りをする横山良多。開業医だった父と、その跡継ぎと期待されながらも海の事故で亡くなった兄へのコンプレックスを克服できずにいる横山家の二男です。演じるに当たって阿部さんは、「素の自分でやろうと思いました。普段、家にいるときと同じようにしゃべることで、良多の力が抜けた感じが出ていいのではと。芝居をしようという意識を強く出さないようにしました」と話します。一方、監督は「僕は小さいことに"ぐじゅぐじゅ"している人間で(笑)。阿部さんは、そんな僕がこの映画で主人公に託した男の嫌なところを、全部拾ってくれた。例えば、実家に向かう冒頭のシーン。良多は妻に荷物を持たせて、自分は携帯で話している。阿部さんはそのシチュエーションで、僕が主人公をどう描きたいのか分かってくれた」と語ります。さらに、「僕と阿部さんは、男の弱々しい部分、度量の"ちっちゃい部分"への価値観が似ていたのかも」と笑います。
 特別な事件が起きる訳でもなく、どこにでもいるような家族の姿を描いた本作。良多が親の老いを感じて複雑な表情を見せる場面では、阿部さん自身もその心の動きに共感したそう。また、家族の何げない会話も面白く、母親役の樹木希林さんと、長女役YOUさんのやりとりには思わず声を出して笑ってしまうはず。「監督は、シーンごとに役者が演じやすい立ち位置を演出しながら教えてくれました。母親と歩くシーンなど、その距離感が表現のヒントにもなりました」と阿部さん。テンポよく交わされていくセリフの裏には、監督の巧みな演出があったよう。
 ある夏の1日を通じて、家族の愛しさや厄介さを見事に映し出している本作。家族の関係は少しずつ変化し、両親は年老いてやがてこの世を去って行く。だからこそ、後悔しないよう向き合っていくことが大切と教えてくれる作品です。

(細川美香)

©2008「歩いても 歩いても」製作委員会
映画「歩いても 歩いても」。12日(土)、シアターキノで公開